オーストラリアの水場事情

こんにちは。からあげです。

 

今オーストラリアツーリングを思い出してみると、一番苦労したことはやはり水の入手だ。人間の体の約60%は水分でできていて、体温調整、栄養分や老廃物の運搬などの重要な役割を担っている。成人が一日に排出する水分(汗・呼吸・皮膚)量は、およそ2.5Lになるといわれているが、自転車で移動するとなると暑さで大量の汗をかくので、少なくとも4Lの水は必要だろう。

今回、比較的涼しくて過ごしやすい冬(7月~9月)の時期に北西部から内陸部の乾燥地帯を走ったが、雲ひとつない晴天の日が続いて強い日差しにさらされてかなりの水が必要だった。

オーストラリアを自転車で走るには、貴重な水場を確実に発見して水を汲むことが絶対に必要となる。これから水を手に入れるのはどうしたらいいのか、順に説明してゆくことにしよう。

水場発見のための必須アプリ

オーストラリアで数少ない貴重な水場の発見に必要なのが、WikiCamps Australiaと呼ばれるスマホ用アプリだ。Wikicampsがあれば、広大な町の中でも水を汲める場所をほぼ確実に探しだすことができる。日本円で600円ちょっとで購入できるアプリなので、手持ちのスマホに絶対入れておいた方がいい。出会った多くのサイクリストも使っていた。

Wikicampsの良いところは、圏外でも使用できること。事前にオフラインマップをダウンロードしておけば、電波の入らない荒野でも使用することができる。水場のほかにシャワーやコインランドリーを探すのにも役立つ。

オーストラリア全土をカバーしていて、州ごとにオフラインマップをダウンロードできる。
出国前に高速のWifi環境でダウンロードして操作に慣れておくといいだろう。

ウォータータンクのあるレストエリア

蛇口とコップの青いアイコンが飲料水(Drinking Water)のマーク。紛らわしいものに、飲用不可の水(Non Drinking Water)のアイコンがある。蛇口とコップの青いアイコンに赤の斜線が入っている。単なる水たまりの飲料水に適さないところに付いているときがあるので注意が必要だ。

レストエリアの詳細を表示すると、現地の詳しい情報が表示される。
掲載される写真は、一般ユーザーや公式アカウントがアップしたもの。

こちらはNTとQLD州境にあるCamoowealという小さな町。
道路脇の小さな公園に水場あり。現地周辺に水場を知らせる標識は一切なし。事前に水場を知っておくと、探す手間が省けるし、持つ水の量を減らすことができて楽に走れるようになる。

 

水場の少ない区間

東海岸・タスマニア島・南西部など一部の湿潤地帯を除いて、オーストラリアの大半は乾燥した不毛の大地が占める。湧き水や流水などの自然の水場がほとんどないため、民家のない荒野では水を手に入れることはできない。要するに町以外では水は手に入らない。長い無補給区間がつづく北西部などでは、自転車に積む水・食料が増えて体力の消耗が一気に激しくなる。

そこで乾燥地帯を走る時は、あらかじめ水場の位置を把握しておき、しっかりとした補給計画を練ることが重要となる。

Port Augusta(ポートオーガスタ)~Noseman(ノースマン)

オーストラリア南岸のNullarbor Plain(ナラボー平原)付近は民家がほとんどなく、頼みの綱はロードハウスだけとなる。

比較的水の豊富な南東岸のAdelaideを過ぎたあたりから、次第に水場が少なくなってくる。
ナラボー平原の東の玄関口Cedunaを過ぎると、民家がほとんどなくなり完全な無人地帯に突入する。CedunaからNorsemanまでは約1,200km。ロードハウスで補給しながらひたすら走る。

Geraldton(ジェラルトン)~Katherine(キャサリン)

西オーストラリア州都Perth(パース)の北GeraldtonからStuart Hwyと交差するKatherineまでの北西部。舗装路のなかでオーストラリア最長の無補給区間(Fitzroy Crossing~Halls Creek 289km)がある厳しいエリア。町の公園にすら水が汲める蛇口が見当たらないところが数多くある。

Katherine(キャサリン)~Hudhenden(ヒューエンデン)

Darwin(ダーウィン)を出てKatherineを過ぎたあたりから、東海岸手前のHughendenに出るまで、特にNTとQLD州境付近が無補給区間が長く厳しい走行を余儀なくされる。その周辺は、強風地帯でもあり、強い向かい風に吹かれながら走ることになる。

 

いろいろな水場の紹介

雨が多くて人が住みやすい南東岸(MelbourneからAdelaideまで)と南西岸(Perth付近)の付近では比較的水場が多かった。
たいていの公園には、水を汲める蛇口がある。写真は走り始めてまだ間もないGreat Ocean Roadを走っている時のもの。

飲料水(Potable Water)と表示されている蛇口。

残念ながら、このように分かりやすく表示されているところは少ない。

水場の標準的な蛇口は、大口径のネジ切りタイプ。キャンピングカーだとホースを繋いで簡単に水を汲めるようになっている。自転車の場合は口の細いペットボトルで汲むことが多いので、広口ボトルで汲んでから移し替える必要があって少々手間がかかる。

Halls Creekの町の中にある水場

キャンピングカーの汚水を処理するDump Point(ダンプポイント)に併設されていることも多いが、単なる汚水タンクの洗浄用の水で飲めない水であることもあり注意が必要となる。

飲用できる水は、Potable WaterのほかにDrinking WaterTap Waterなどと呼ばれることもあるので覚えておこう。

有料施設の水場は、バルブハンドルが外されていて水を汲めないことがある。その場合は、店員さんにお願いしてバルブハンドルを借りて汲むことになる。

何の表示もない蛇口。
飲める水なのか、飲めない水なのか分かりづらく非常に悩むことがある。

こうした青々と芝があるところは比較的安全。

飲用不適の表示はあっても、実際に飲めないこともない。
雨水を貯めたウォータータンクに飲用不適の表示がされていることもある。

出処不明の水より雨水の方がはるかに安全だ。しかし念のため浄水器に通してから飲んだ方がいい。

再処理されたリサイクルウォーターだけは飲む気がしなかった。
どのような水がどのような処理をされているかは全くの不明。

公衆トイレの手洗い場で水を汲むことも多かった。
日本なら水道水であることがほとんどなので、何も考えずに飲むことができるが、オーストラリアだと多少は考える。

周囲の状況と自分の五感を頼りに飲める水か判別することも必要だ。
湿潤な地域で周囲に民家があれば、比較的安全な水と思われる。

まれに飲料水ありの標識を見かけることがある。
ここはナラボー平原で数少ないウォータータンクのあるレストエリア。

屋根は強い日差しを避けるとともに、雨水を集める役目がある。屋根に降った雨水を集めてタンクに入れている。
ナラボー平原は雨が少ない場所だが、全く降らないわけではない。ここは屋根が広い分、集水量が多い。

屋根からウォータータンクに繋がっているトイ。

落書きされたウォータータンク。

貴重なウォータータンクだが、施設が老朽化していて壊れて使えないところが多い。
車で移動することが当たりの現代では、ウォータータンクは必要とされなくなった。そのため、壊れていても、修理されずに放置されていることが多い。基本、ウォータータンクでは水を汲めないと思っておいた方がいい。

バルブが壊れていても、手でパイプを押し下げるとコップ1杯の水を汲むことができた。

AdelaideからDarwinまでのオーストラリアを縦断するStuart Hwy沿いにあるウォータータンクだけは整備されて使用できるところも多かった。見た感じ最近になって整備されたものと思われた。雨が滅多に降らない地域のため、定期的にタンクローリーで水を運んできて入れているようだ。

バルブも新しく水がきっちり止まる。水を汲んだあとはしっかりバルブを締めておく。乾燥地帯では水は貴重品。一滴たりとも無駄にしてはいけない。

私がStuart Hwyを走ったのは、DarwinからTennant Creekまで。Stuart Hwy沿いのウォータータンクなら多少は当てにできるが、当てにしすぎるのは危険。

風力を利用して地下水を汲み上げるウインドミルと呼ばれる施設。
大きな風車が目印となり遠くからでもよく目立つ。風車が回っていれば設備が稼働中である可能性が大でかなり期待できる。ただし、個人の施設だったり、単なる観光客向けの展示用だったりすると、水を汲むことができない。牧場内によく見かける。

 

水の入手方法

乾燥地帯では水の入手は難しくなるが、決してタダで汲めないことはない。ミネラルウォーターを買ってばかりいたら大変な出費になる。Wikicampsに載ってなくても、人に聞けば意外にあっさり見つかることもあるし、あちこち走り回ってもなかなか見つからないこともある。人が住んでいれば、必ずどこかに水場はあるはずだ!買ったり貰ったりするのは最後の手段でいい。まずは自分で探す。

町の公園やトイレ

最も手堅い水場は町の公園や公衆トイレ。ごくまれにWikicampsに載ってない水場を偶然発見することもある。公園には噴水のように吹き上がる水飲み水栓しかないところや、蛇口下のクリアランスが狭いのもあるので、広口ボトルは絶対に持っておいた方がいい。推奨は折りたたみ水筒のプラティパスを半分に切ったもの。たいてい使っているうちにボトルネックに穴が空くので、穴が空いたら半分に切って折りたたみバケツとして使用する。

ロードハウスやキャラバンパークなどの有料施設

ロードハウスの建物の前に蛇口があって水を汲めるところもあるが、あってもたいてい目立たない場所にひっそりとある。勝手に汲むとドロボウになるので、必ずお店の人に断ってから汲むようにする。快くOKを貰うために、まずは店で飲み食いしてからお願いする。タダで水を汲ませろはあまりに虫が良すぎる。通過するだけの自転車旅行者は、店にとって何のメリットもなくただの邪魔者に過ぎない。皆が皆サイクリストに好意的な人間ばかりではない。ロードハウスの経営環境は年々厳しさを増しているようす。お客だと精一杯アピールしたところで、店員が暇な時を見計らって丁寧に言おう。

Could you please give me water?

心を込めて丁寧にお願いしよう。Could you~を付けることでお願い口調になる。Pleaseだけだと丁寧だが命令形となって好感を持たれない。英語に自信がない時は、手にペットボトルを持って話せば、相手はたいてい理解してくれる。OKを頂いた時は神に感謝しならが、大げさに全身で喜びを表しつつ丁寧にお礼を言おう。

 

 

キャラバンパークと呼ばれるキャンプ場でも水を汲める。遅い時間に行って水だけ汲ませてくださいと言うには気が引けるので、早めに行くか遅い時間なら泊まる。テントのみだと10ドルから20ドルと安価に泊まれるのがキャラバンパークの魅力だ。シャワーを浴びれば、疲れが取れて気分が前向きになる。

モーテルやホテルは非常に高いので基本は泊まらない。そんな金があるのなら、ごちそうを食べた方がよっぽど疲れが取れる。

ミネラルウォーターを購入する

町のスーパーには、必ずミネラルウォーターが安価(1.5Lで2~3ドル)で売られている。大容量のタンク入りのものもあるが、重量バランスをとるのが難しい。スーパーがある町になると、たいてい水を汲める蛇口があるのでミネラルウォーターを買う必要はない。

問題は荒野の中にポツンとあるロードハウスの場合。ここで販売しているものは全て高い。特に冷たい飲み物は、少なくとも町の倍以上はする。値段が表示されていないことが多くて怖くて買う気がしない。

私が確認した中で最も高かったのは、北西部のとあるロードハウスで1.5Lのミネラルウォーターが約7ドル。そんな高価なものを何本も買っていたら確実に破産する。ミネラルウォーターは水がどうしても手に入らなかった時に必要最低限だけ買うようにしよう。私は水を多めに持って買わなくていいようにした。

通行人に貰う

オーストラリアではキャンピングカーでキャンプしながら回っている高齢者が多い。定年退職をした人が夫婦で旅をしているようだ。裕福な彼らは気前がいいので、たぶん頼めば水を分けて貰える。道路脇に立ってペットボトルを振りかざして車を止めて水を貰うのは、双方に危険がおよぶので非常時以外はやらない方がいい。ロードトレインと呼ばれる超大型車が通るので、路肩に車を止めてやりとりしていると非常に危ない。

トイレや東屋の設備が整ったレストエリアには、たいていキャンピングカーなどの車が停まっている。大きなキャンピングカーだと大容量のタンクを搭載しているので、水を分けてもらいやすい。ドライバーたちは自転車旅行者たちのことを気にかけてくれていて、水はあるのかと声を掛けてくれることが多い。

出会ったサイクリストの中には、水を最大10Lしか持たない人がいた。彼らはレストエリアの車から水を分けて貰いながら走っていたようだ。人から水を貰う方法がもっとも楽だが、私は他人を頼るのが嫌いなため、自分からお願いすることはなかった。

ウォータータンク

壊れているものが多くて全く頼りにならないウォータータンクだが、途中で見つけたら寄っていく価値はある。水が汲めなくても、強い日差しから守ってくれる屋根がある。

休憩ついでに寄って水があれば、必要分だけ汲んでおくとよい。

川の水を汲む

ごくまれに水が流れる川があるが、そういった湿気のある場所では水に困ることは少なくて川の水を汲む必要はない。危険な川の水を飲むくらいなら、道行く車に貰った方がいい。
どうしても水が手に入らない、力尽きて動けない時で、他人から分けて貰うのが嫌いな人は危険を覚悟の上で川の水を汲む。ただし、北部地方にはクロコダイルと呼ばれる危険なワニが生息しているので、水辺に近寄る時は細心の注意を払う。彼らは水辺に棲むハンターだ。身の隠し方を心得ている。悪いことは言わない、やめておいた方がいい。

川で汲んだ水は、必ず煮沸消毒するか浄水器に通してから飲む。

浄水器の使用について

雨水や水源が不明な水は浄水器に通してから飲んだ方が無難。近年、世界的に環境破壊が進み安全な水を得にくくなった。
煮沸消毒だと手間と燃料が必要だが、浄水器だと多少の手間は掛かるが繰り返して使用することができる。ただし、水に溶け込んだ汚染物質などは取り除けないので注意が必要だ。海水を通すと、真水が出てくるわけではない。

一度町外れの水場で汲んだ水をそのまま飲んで下痢をしたことがある。幸い浄水器に通したら下痢は治まったので、そのまま町まで走ることができた。過信は禁物。身の安全のために浄水器の携帯を推奨する。少しでも不安を感じたら、浄水器に通しておけば体調不良になるのを避けられる。衛生状態の悪い発展途上国を旅する時や災害時などでも役に立つ。

写真は標準的なペットボトルの口に付けられるソーヤーミニ(Sawyer Mini)。フィルターが目詰まりしてきたら、注射器で洗浄することにより繰り返し使用できる。ソーヤーミニの他に浄水能力が高いソーヤースクイーズ(Sawyer Squeeze)もある。両方持っているが、今回は洗浄しやすいソーヤーミニを持っていった。


 

ミネラルウォーターのボトルに取り付けて浄水しているところ。
折りたたみ可能なプラティパスやソフトタイプのボトルに付けて使用する。煮沸消毒と比べると、燃料いらずで簡単に水を処理することができる。PCTハイカーに人気のあるソーヤー。

濁った水やゴミがたくさん浮いている汚れた水を通すと一発で目詰まりを起こすので注意が必要。洗浄にはきれいな水が必要で、かえって水を減らしかねない。

 

水の積載量と積載方法

水の積載量は、ナラボー平原横断時で最大16L、北西部と内陸部で最大22Lとなった。ロードハウスでの補給は必要最低限のみ。
北西部から内陸部は、比較的涼しい冬の7月~9月に走ったが、一日で約6Lも必要なときがあった。水の消費を抑えるには、涼しい夜間に走るのが効果的だが、交通量が多いと危険なので、状況を判断して安全なときのみ行う。

自転車は世界のサイクリストに絶大な人気を誇るロングホールトラッカーのディスクブレーキ版のディスクトラッカー。クロモリ製のフレームで非常に丈夫。キャリアーも丈夫なクロモリ製で前はサーリーのナイスラック(耐荷重32kg)、後ろはチューブスのロゴクラシック(耐荷重40kg)。前後のキャリアには、荷物をたくさん詰めるように自作のカゴを取り付けている。

 

自転車に水を積載する時は、重量バランスと重心を考える。もっとも重心が低くて安定しているフレームのボトルケージに1.5Lと0.5mlのペットボトルを付けた。ダウンチューブ上のケージには、ガソリンストーブの燃料ボトル(887ml)を付けた。

ハンドルバーの自作ボトルケージには、500mlのドリンクボトルと750mlのガソリン携行缶を入れた。他のボトルから移し替えてドリンクボトルが飲用の常用ボトルだった。

前カゴの一番奥に2Lの角型ペットボトルを入れた。

そして前カゴの前の方には0.5Lから0.75Lのペットボトルを挿しておき、ドリンクボトルの水が少なくなったら移し替えていた。

前カゴの下に1.5Lのペットボトルを左右に吊り下げた。サイドバッグの上に縛り付けると荷物の出し入れの際に不便。ペットボトルの重心バランスを考慮すると、ロープで縛っただけでも問題はなかった。

サドル下のリアキャリアのステーの上に金網を乗せて荷物を載せられるようにした。
1.5Lより少し小さめの1.25Lのペットボトル2本がジャストフィットした。

重心に近くてとても安定した荷台だった。

リアキャリアのカゴの中には1.5Lのペットボトルを4本積んだ。
カゴのヨコにロープで縛ってさらにペットボトルを2本追加した時期もある。

完全防水のカバンの容量を無駄に消費しないため、カバンに負荷をかけないために、できるだけ水は入れないようにしていた。
プラティパスの折りたたみ水筒は最大2.5L入り、それが2つで5Lの追加。

水・食料最大搭載時(水22L、食料7日分)のようす

北西部Port Hedlandを出る時が最大積載となった。荷物をたくさん積むとなると、どうしても積みやすいリヤに荷物が偏りがちになる。できるだけ負荷を分散させる方が安全だ。

 

まとめ

水は重たいがいつでも捨てられるので、町を出る時は多めに持っておいた方がいい。
途中で確実に余る量だけ捨てて行った方が気楽に走ることができる。早めに捨ててしまうと、風向きが変わって向かい風となったり、気温が上昇したりしてピンチを招くことになる。

楽に旅をするためにも、道行く人から気軽に水を貰った方がいい。余計なプライドは捨てた方が人生楽しく生きられる。他の人とコミュニケーションすることで楽しさが増すし、新たな発見をすることもあるだろう。自転車で走る目的は楽しむためであって精神修行をするためではない。適度に人の手を借りて毎日無理せず走る。

あれ、まるで自分に言い聞かせるような内容になってしまったな!