ハブダイナモ(Shimano DH-UR700-3D)の分解整備

こんにちは。からあげです。

はじめに

2019年秋、ついに念願のハブダイナモ(Shimano DH-UR700-3D)付きホイールを手に入れた。以前から常時点灯して走りたかったのだ。
ハブダイナモの抵抗で重たい走りになったものの効果は抜群。道行く車や人の挙動が一変した。

それから半年以上の月日が流れた2020年夏。走行距離が6,000kmを越えたところでハブダイナモのメンテナンスを行うことにした。今振り返ってみると、初回の整備は当たりが付いた早い段階、1000~2000km程度で行った方が良かったと思う。

ハブダイナモで自転車を常時ライト点灯する~ハブダイナモ付きホイールの入手~
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ハブダイナモ Shimano DH-UR700-3D

はじめSP(Shutter Precision)とShimanoの2択で迷った。
SPは耐久性のあるシールドベアリング。Shimanoはメンテナンス可能なカップアンドコーン式。
シールドベアリングは高い耐久性があるものの、使い捨て方式で整備できないのが最大の欠点。出先での整備が難しい長期海外ツーリングに向いているのではないだろうか。

今回は手間はかかるがメンテナンス可能でより長く使えるカップアンドコーン式のShimanoのDH-UR700-3Dを選んだ。6V3Wで最高出力。

ハブダイナモ入手時、ShimanoのサイトではXTグレードになっていたのだが、いつの間にか別グレードに変更されていた。ハブダイナモ本体のどこにもXTと表示されていないので、多少は気になっていた。
XTグレードDH-T8000-3Dの後継機種で、「新内部ユニット構造で DH-T8000-3D より 28 g 軽量」「回転効率向上によりダイナモの抵抗がDH-T8000より最大44%軽減」など軽量化と回転抵抗の低減が売りらしい。
METREAという街乗りグレードが新設されていた。
よく分からないが、Shimanoのハブダイナモの中では最上級グレードであることには間違いない。
私は装備品に関しては一切妥協しない。

METREA_U5000シリーズ
The new face of urban sport

都市における移動、都市における生活の為に、本当に必要な機能・性能・スタイルを追求した結果が、この新しいMETREAシリーズです。

新しい提案の Hタイプハンドルバーはアーバンスポーツバイクの純粋なビジョンを体験したいライダーのために。
フラットハンドルバー仕様は市街地におけるさらなる使い勝手の良さと、様々なバイクフレームに対応します。
市街地走行に最適化した効率の良いギアステップをラインアップ

Shimanoウェブサイトより

 

ハブダイナモの分解整備(SHIMANO DH-UR700-3D)

ハブダイナモ分解に必要な工具

・ハブスパナ17mm×2本
・ハブスパナ20mm×2本
・ソケットレンチ(またはメガネレンチ)36mm×1本
 *Shimano専用工具TL-DH10推奨

そのほか基本の整備用工具

早速分解整備を始める。

ホイール、CRシャフト、ブレーキローターの順に外した。
すると端子側の玉押しとロックナットに20mmのハブスパナ2本、反対側の玉押しとロックナットに17mmのハブスパナが2本必要であることが分かった。
手持ちのハブスパナは両口13mm/15mmと片口17mmのみ。

せっかくやる気になっていたのに。

17mmハブスパナの加工

通常の17mmのスパナがたくさんあったので、グラインダーで削ってハブ用に加工することにした。

スパナ1本を駄目にして2本目にしてようやくハブスパナとして使えるものができた。
1回目は削りすぎてガタガタになってしまった。
上のハブスパナはパークツールの17mm/18mmの両口を、軽量化のために不要な18mm側を切り落として片口にしたもの。

 

20mmハブスパナ

20mmハブスパナは安さに釣られて、「SUPER B」という台湾工具メーカーのものを買ってみた。Shimano純正工具1本で、SUPER Bの工具が4本も買える。

最近、私の中では台湾メーカーの工具が非常に熱い。日本製よりも安く品質は想像以上に良い。本国ものとは違い台湾製は信頼できる。

 

メーカー名はなぜスーパーBなのかは謎。Bライフ向けの工具には間違いない。
100均は信頼性と耐久性が全くないので論外。自転車整備には向かない。

ヘッド周りのようす

厚みは2mm

 

36mmソケット

回転子キャップを外すためには36mmのスパナが必要だった。
Shimano専用工具TL-DH10は驚きの価格3,000円超。ハブダイナモ専用のレンチで他に使いみちがない。そこで安いトラスコの36mmソケットを購入した。Shimano専用工具の1/6の値段で買える。

サイズが24mmを越えると差し込み角が12.7mmのみ。手持ちのラチェットレンチの差込角は9.5mm。アダプターを付けて使うことにした。

ソケットレンチは端子や電線を傷めやすく細心の注意が必要です。
通常のメガネレンチでは掛かりが浅くキャップの頭を傷めるおそれがあります。
何度目かの分解整備の時、ソケットレンチで電線2本を切ってしまいました。

高くても安全確実な作業ができるShimano専用工具TL-DH10をおすすめします。

 

トラスコの刻印

価格が500円ちょっとの割には品質は良い。穴は12角。

最近、やけに走行距離が増えて仕方がないディスクトラッカー。
日常生活を支えてくれている私の大事な相棒。しっかりと整備してやりたい。

去年、ディスクトラッカーはフルモデルチェンジされたようす。
今流行りのスルーアクスルにフラットマウントディスクブレーキ台座、そしてハブダイナモ配線用の穴。ちくしょうめ、サーリーの野郎やりやがった!

剛性が高いスルーアクスルへと移行しつつある現在、モデルチェンジされたのは非常に喜ばしいこと。そのうちフレームを買い換えて、使えるパーツを付け替えることがあるかもしれない。27.5インチホイールを入手するときはフレームを買い換えるときだ。それはヨーロッパに走りに行く時。

 

ハブダイナモの構造


ハブダイナモ(DH-UR700-3D)展開図~シマノ公式ウェブサイトより
作業前にシマノの公式サイトで展開図をダウンロードして手順、必要な消耗品を確認しておく。
シマノのハブダイナモは左のベアリング関連は単品販売しているが、右は内部一式で販売されている。

右側の電線付近の構造が複雑なので、写真撮影・メモをとりながら慎重に作業を進めたい。
内部のシャフトが貫通するコイルは固定、外部の内側に磁石が取り付けられたハブ筐体が回転する仕組み。
403 Forbidden
 

ハブダイナモの分解作業のようす

フロントホイールを外して、CRシャフトを抜いたところ。
このハブダイナモはE2端子

角度を変えてもう一枚。
ハブ筐体のフタは八角形で2面幅は36mm。

反対のブレーキローター側。先日、ブレーキローターを交換したばかり。
新品のローターになるとブレーキの効きが良くなった。

専用工具でロックリングを緩めてブレーキローターを外す。

ブレーキローターを外したところ。

玉押しとロックリングは17mmハブスパナ2本で緩めて取り外す。
中のシールリングが固くてベアリングを取り出すことができず。
反対の端子側から攻めることにする。

 

E2端子周りの分解

端子側のロックナットを20mmハブスパナで取り外す。

取り外したロックナット(外側)

回り止めのギザギザが付いた方が外側になる。

ロックナット内側。こちらは平ら。

外側端子カバーを外したようす。

押さえのロックナットをとると、簡単に外すことができる。

電線は途中で交差している。ハブダイナモの出力は交流なので極性は気にする必要はなし。

外側端子カバー(表)

外側端子カバー(裏)

外側端子カバーを外したあと、さらに内側端子カバー内側を外す。端子カバーの穴から端子を通してやさしく外す。このとき、電線を強く引っ張らないようにしたい。

角度を変えてもう一枚。電線の出ている部分に注目。

リング状金具の凹みから電線が出ている。

内側端子カバー(表)

内側端子カバー(裏)

リング状金具を外す。

リング状金具(表)

内側の出っ張り部分がシャフトの電線の溝にハマる仕組み。

リング状金具(裏)

電線を出す部分の凹みあり。

薄い金属板を取り外した。すると玉押しが露出する。

金属薄板(表)

この出っ張りに注意。

20mmハブスパナで玉押しを取り外す。スパナを使うまでもなく手で簡単に緩めることができた。このとき電線を傷めないように注意する。

電線をシャフトの溝に押し付けた状態で玉押しを引き上げる。

玉押しを外してみると、シャフトの溝がシリコンで防水処理されていた。
あとで組み立てる時にシリコンを塗布することにしよう。

端子側の玉押し

反対側にひっくり返す。

玉当たり面をチェック。特に問題はなさそう。ほっと一安心。

ブレーキローター側のロックナット(17mm)を外す。
こちらはキツめに締まっていた。

ロックナット内側の玉押し。

玉押しのベアリング当たり面も問題なし。テカテカのツルツル。写真を撮り忘れる。

これで両側のベアリングを取り出せるようになったのだが、シールリングが硬くて外れなかったので、中のコイル丸ごと外してしまうことにした。

 

コイルの抜き出し

コイルを取り外すには、36mmのキャップを取り外す必要がある。
トラスコの36mmソケットを取り付けてみるとガタはなし。

回転子キャップは正ネジ。締め付けはかなりキツめ。

このキャップが異様に固かった。あまりの固さに逆ネジではないかと思えた。

接合面の隙間に防錆潤滑剤(CRC-556)を吹き込み、ラチェットレンチの柄にパイプを継ぎ足して回し緩めることに成功した。

今回の作業で一番の難所は、この回転子キャップの取り外しだった。ソケットレンチは強く押さえ付けながら回さないと六角の角を傷める。一箇所傷めてしまった。

ソケットレンチはかるく緩めるだけにして、手で緩めた方が安全です。
ソケットでフタをするため中の電線が見えなくなり、端子や電線を巻き込んでも気づきにくいです。
 

外したキャップのネジ山。

強い力で締め付けてあるが、油っ気が全くなし。はじめからグリスを塗っていなかったのだろう。

キャップの裏側

水滴が付いているのを確認した。
西日本ツーリングの時に何度も大雨のなかを走ったため、雨水が侵入したのだろう。

穴の内側にベアリングあり。シールリングが異様に固くて外すのに苦労した。内側から丸めたウエスを突っ込んで丸棒で押し出した。先の尖ったマイナスドライバーだとゴムやプラスチックパーツを傷めるおそれあり。

右のシールリングは単品販売されていません。固い時は無理に外さない方が無難です。シールリングが歪んで使用不能になります。
そのまま灯油などの洗浄液に浸けて洗浄します。
 

キャップを外すと中のコイルが見える。

シャフトを引っ張るとコイルが抜ける。
永久磁石とコイルの磁力、重量のために少し重たい。真上にゆっくり引き上げる。

抜き出したコイル

表面に水滴が付いているほかは問題なし。思ったよりキレイだった。

シャフトの付け根に防水用グリスが塗られている。
若干乳化して白くなっている。

こちらはローター側のシャフトの付け根。同じくグリスが塗られている。
コイルの鉄片にサビが見える。

コイルを抜き出したハブ筐体内。

内側に永久磁石が取り付けられている。

コイルを持つとかなりの重量感がある。
重量を量ってみるとなんと194gもある。重たいわけだ。

ローター側のベアリングとシールリング

分解時に防錆潤滑剤を吹きかけたため、グリスはほとんど落ちてしまっている。
キレイなグリスが適量あった。ベアリングの玉は15個で大きさは直径4mm。リテーナー付き。

ローター側ベアリング
15個 直径4mm(リテーナー付き)
 

反対側に裏返す。こちらが内側になっている。

端子側のベアリングとシールリング。

ベアリングの玉は17個で大きさはローター側と同じ直径4mmでリテーナー付き。
シールリングの直径も少し大きい。固くて外すのにかなり手間どった。

固いときは無理に外さない方がよい。無理をすると歪んで使えなくなる。
右側のシールリングは単品販売されておらず、コイルユニット一式の中に含まれている。キャップごと洗浄液に浸けて丁寧に洗った方がよい。

端子側ベアリング
17個 直径4mm(リテーナー付き)
 

分解掃除後の各パーツ

ハブダイナモの内部。ウエスでキレイに拭き上げた。

キャップ

玉受け部分を念入りに掃除した。

傷はなし。キレイそのもの。

キャップ(裏)

角度を変えてもう一枚。

さらにもう一枚。

復旧する時、忘れずにネジ山にグリスを塗っておいた。

ローター側玉受け

こちらも玉受け部分を念入りに掃除してウエスで磨いた。

傷は全くなし。

端子側玉押し

玉当たり部分は良好。傷一つ見当たらない。

ローター側玉押し。こちらも全く問題なし。

コイルには防錆潤滑剤は使わず、ウエスで拭くだけにした。
わずかにサビが浮いていたが、ウエスで擦ると簡単に落ちた。

端子側のコイルシャフト

シャフトの付け根(端子側)

コイルも分解できそうだが、今回は分解せずにウエスで拭くだけした。必要に迫られるまでコイルは触らない方がいいだろう。いじり壊すおそれあり。

シャフトの付け根にグリスを塗っておいた。

ローター側のコイルシャフト

シャフトの付け根(ローター側)

こちらにもグリスを塗っておく。

ケースにコイルを挿入したあと、ローター側のベアリングとシールリングを取り付けて、玉押しとロックナットを手で軽く締め付けておく。

まずは端子側のキャップを取り付ける。ネジ山にグリスを塗って適度に締め付けておいた。そのあとベアリングを入れてグリスをたっぷりと塗りたくる。

ハブはベアリングが命。Shimanoの高価なプレミアムグリスを惜しげもなく使う。

 

シールリングを挿入してから玉押しを取り付けて、元のように組んでゆく。
シャフトの配線用溝に防水シリコンを塗っておいた。

そのあとベアリングの玉当たり調整を行う。回転抵抗のある重たいハブダイナモは難しかった。当たり具合が非常に分かりづらい。ゴリゴリ感が出始める手前、ガタがでない程度に調整してヨシとした。

今回はとりあえずこれでやってみて、次回開放したとき当たり面の状態を見て考えることにする。

元通り復旧したハブダイナモ。
デジカメで1つ1つの工程を丁寧に写真を撮ったお陰で迷うことはなし。
ハブダイナモは端子周りのパーツが複雑なので、慣れるまでは写真を撮りながら分解していった方が無難だ。作業の途中で何度もデジカメの画像を見て確認した。

 

分解整備後のハブダイナモ

復旧後しばらくは違いが全く分からず。だが、しばらく経って中のグリスが馴染むと、回転が滑らかになりスイスイと走るようになった気がする。もっと早めにやっておけばよかったと後悔した。

今回は必要のないキャップまで外してコイルを出したが、丁寧に掃除しようと思ったらキャップも外した方がいい。それほど手間が掛かるわけでもなし。僅かな手間を惜しむと逆に作業がやりにくくなる。ネジ山にグリスが塗られていないキャップをそのまま放置していたら、固着して外すのが難しくなっていただろう。今回外して正解だった。ただし、端子や電線を傷めないように注意を払う必要がある。

大雨のなかを何度も走ってケースの中に水が入っていたので、それほどシール性は良くないように思える。少なくともハブを水没させるのは厳禁だ。少しでも長持ちさせるために、今後は5,000km目安にこまめに整備するとしよう。