MSRガソリンストーブ 長期間にわたる燃焼不良の原因~ディップチューブの曲がりグセが悪さしていた~

こんにちは。からあげです。

燃料不良に悩まされ続けたウィスパーライトインターナショナル

私が愛用するガソリンストーブ「MSR ウィスパーライトインターナショナル」。
安価でどこでも手に入るレギュラーガソリンが使用可能で海外を旅する人間にとても人気がある。プレヒートやメンテンナスに手間がかかるが、ゴムパッキンやOリングなどの消耗品を交換していれば末永く使える。(ただし、ストーブの構造を熟知して使用した場合に限る。)

2019年オーストラリア自転車旅で、半年間毎日使用したストーブだった。AU初給油では間違えてハイオクガソリンを入れてしまい、燃焼不良で大量発生する煤に悩まされた。使い切ったのちレギュラーガソリンを入れると、モクモクと煤を吐き出していたのが嘘のようにピタリと止まり、快調に燃焼してくれるようになった。

しかし、その調子はそう長くは続かなかった。時間が経つにつれて、原因不明の燃焼不良に悩まされるようになっていった。
何度掃除をしても、炎はオレンジ色のままで燃焼状態は改善せず。通常の燃焼では青色の炎になるが、バーナーヘッドや燃料パイプが汚れてくると、次第にオレンジ色の炎を出すようになる。当時は僻地にいたこともあって、ガソリンの品質が悪いためだと思い込んでいた。

煤は身なりを急速に劣化させる。着ている衣類は黒ずみ、爪の間は真っ黒。まるでホームレスのようだった。

 

燃焼不良時の状態

プレヒート中ではなく、通常燃焼での状態。
燃焼不良のほかに、燃料の出方も悪いような気がしていた。ご飯を炊いていると、途中で火が消えそうになることもしばしば。ポンピング回数を増やしてなんとか使っていた。

給油の手間を減らし、燃料の余裕を持ちたかったために、SOTO 750mlガソリン携行缶とMSR燃料ボトル大(30OZ 887ml)を携帯して、最大で約1.5Lのガソリンを持てるようにした。しかし、燃料ボトルの残量が半分以上あっても燃えが悪くなることがあったので、常に多めのガソリンを持たねばならなかった。

 

ついに燃焼不良の原因を突き止める

日本に帰国後もガソリンストーブの燃焼不良に悩まされ続けていた。ストーブを使うと、相変わらずオレンジ色まじりの炎のまま。大量の煤を吐き出していた。

ある日、いつものようにガソリンストーブで玄米ごはんを炊いていると、ふと閃いた。(実家にいる時はガソリンストーブで自炊する。)試しにもう一つのXGK EXを使ってみるかと。

翌日、久しぶりにXGK EXでご飯を炊いてみた。すると驚いたことに、XGK EXは轟音を発しながら青い炎で快調に燃えているではないか。これまでウィスパーライトインターナショナルではおよそ40分掛かっていた炊飯だが、半分の20分程度で終了する。

右がXG EX、左がウィスパーライトインターナショナル

ウィスパーライトインターナショナルは何度も分解して掃除しているのに燃焼不良は一向に改善せず。この違いは一体なんだろう?
ガソリンの品質には問題ないはず。ストーブ本体もキレイに掃除して黒光りするほど磨き上げた。あと残るは燃料ポンプしかない。

ウィスパーライトインターナショナルとXGK EXの燃料ポンプは同じタイプのスタンダードポンプ(火力調整が可能なドラゴンフライはコントロールバルブの形状が異なるドラゴンフライポンプ。区別しやすいように赤色になっている。)

上がウィスパーライトインターナショナル、下がXGK EXで使っていた燃料ポンプ。
両者をじっくりと見比べてみる。

全く同じものなのに何かが違う。まるで間違い探しをしているようだ。
あっ、あった。「燃料吸入用のディップチューブが曲がっている!」原因はこれだ。間違いない。燃焼不良の原因をようやく突き止めた。

 

燃料ボトルは横置き。ストーブをセットすると、コントロールバルブの方が常に上にくる。
これまで燃焼不良だったウィスパーライトインターナショナルは、燃料ポンプのディップチューブにクセが付いて、上の方に曲がってしまっていた。
今になって思い出してみると、XGK EXを使用しているときにも原因不明の燃焼不良に悩まされたことがある。

ディップチューブは燃料を吸い込む重要なパーツ。先端の吸入口が燃料から出ていると、空気を吸い込み燃料が十分供給されなくなって燃焼不良になる。


燃料ボトル内のイメージ図
これが正常な状態。
ディップチューブ先端の吸込口は、常に燃料の中に浸かっていなければならない。

ディップチューブを抜いてみた。
ただのはめ込み式で簡単に抜き挿しできるようになっている。
長期間使用するうちに、曲がりクセが付いてくる。特に小さなケースに収納すると、どうしても曲がりクセが付く。

使用していた収納ケースは、2Lペットボトルで作った自作のもの。定番の「EPI APSA-Ⅲ」のケースよりも軽くて気に入っている。

 

未使用の燃料ポンプ。ディップチューブに曲がりなし。

燃料ボトルを横置きした時にディップチューブの先端が下に向くように取り付ける。
たったこれだけのことで燃焼不良が改善された。

新品当時のように青い炎を出して燃焼するようになってくれた。これまでの燃焼不良の原因は「ディップチューブ曲がりによる空気混入」ということが判明した。空気を吸い込んで燃焼に必要な量の燃料が供給されなくなった結果、燃焼バランスが崩れて不完全燃焼を起こし煤を吐き出すようになったのだ。

あとになってMSR製品の輸入代理店「株式会社モチヅキ」のウェブサイトを見てみると、私が散々悩んだ燃焼不良の件が載っていたことに気がつく。
もっと早く知っていれば、長期間悩むことはなかったのにと思ったが、自分で原因究明できたのでヨシとしよう。ネットに頼ってばかりいると、自分で考える力が衰えてしまう。便利な世の中だからこそ、他人を頼らず自分を頼る。

頼りにしているよ、おっさん。

 

スタンダードポンプの分解と各部の機能説明

ガソリンストーブ一式

自作収納ケースとストーブ台、ウィスパーライトインターナショナル本体と燃料ポンプ、MSR純正圧電着火具とマグネシウムファイヤースターターの点火器具。
これに専用の分解工具が加わる。

燃料ポンプ

1年以上使用して煤でうす汚れているものの使用上問題はなし。
使い始めてからOリングはいまだ未交換。いい加減に交換しておこう。

外観・使用状況に関わらず、メーカーは年1回、全てのOリングの交換を推奨しています。
Oリングの劣化は燃料漏れによる重大事故を引き起こすおそれがあり非常に危険です。
 

裏返したところ。ストーブ本体の燃料パイプの接続口がある。

チェックバルブ(逆止弁)

チェックバルブ外観

プランジャから吐出される圧縮空気の出口。
ポンピングして燃料ボトル内の圧力を高め、その力でストーブ本体に燃料を送る。

チェックバルブの内部構造。逆止弁とも言われ、流れは一方通行。
通常はスプリングの力によりバルブは閉じているが、ポンピングしてシリンダ内の空気が圧縮されて圧が高まると、スプリングの力に打ち勝ち圧縮空気が吐出される。圧が下がるとスプリングの力でもとのように閉じられる仕組み。

ゴミなどの異物を噛み込むと、逆流するようになってポンピングしても燃料ボトル内の圧力が上がらず燃料が供給されなくなる。

ディップチューブ(燃料吸入ホース)

ディップチューブ

燃料を吸い込むためのホース。はめ込み式で簡単に抜き挿しできる。先端についているのはフィルター。長期の使用で曲がりグセが酷い。

フィルターのようす。
目の細かい素材でできている。

ディップチューブ挿し込み口。垂直ではなく、斜め方向に空けられている。

ボトルシール周り

挿し込み口の近くのネジ山に空けられた3つの穴。
成形用のためと思われるが、ネジ山を掃除する役目もあるように思われる。

燃料ボトルを密閉する役目のボトルシールが硬化してくると、燃料が漏れやすくなり非常に危険。Oリング同様に定期交換する必要あり。

ボトルシール周辺

ディップチューブから吸い込んだ燃料はコントロールバルブを経てストーブ本体に供給される仕組み。

燃料パイプ挿し込み口

穴の奥に燃料パイプOリングが入っている。このOリングも硬化してくると燃料が漏れやすくなって危険。定期交換する必要がある。

コントロールバルブ

付属の分解工具でコントロールバルブを外す。

コントロールバルブ

バルブを開け閉めして燃焼を制御する。ただし、バルブ開度での火力調整は不可。(基本的にガソリンストーブは常に全開の強火。ドラゴンフライ以外では火力調整はできない)中途半端にバルブを開けていると、十分な燃料が供給されなくなって燃焼不良となる。そして煤が大量発生するようになって頻繁に分解清掃する必要性が出てくる。

火力調整できないとされるXGK EXやウィスパーライトインターナショナルでも、バルブ全開にしたままで、ポンピングの回数の増減多少の火力調整は可能。(ほんのわずか気持ち程度。)

バルブシャフトにとりつけられているコントロールバルブOリングで燃料をしっかりと遮断する。
このOリングが劣化してくると、バルブを閉じても火が消えなくなり、あと燃えがダラダラと長く続くようになる。

プレヒート中やあと燃え中のオレンジ色の炎はよく目立つ。野宿者は気をつけなければならない。

コントロールバルブを抜き出した穴

ゴミを噛み込むと、バルブを閉めても燃料が止まらなくなる。
ウエスを突っ込んで掃除しておく。

プランジャとシリンダ

燃料ポンプからプランジャを抜き出したところ。
向きを合わせてから回すと外すことができる。
プランジャーの構造は単純で先にゴム製のポンプカップが付いているだけ。

ポンプカップを横から見る。
プランジャを押すと、圧縮された空気によってポンプカップが広がり、シリンダ内の壁に押し付けられて気密性を保つ。
プランジャを引くと、減圧された空気によってポンプカップが縮まり、シリンダ内の壁と隙間ができて空気を吸い込む。

角度を変えてもう一枚。
ポンプカップはプランジャの先端のポッチに嵌めているだけ。
ポンプカップが劣化してくると、ポンピングしても燃料ボトル内の圧力が上がらず、燃料が供給されにくくなって燃焼不良になる。

見た感じ劣化がかなり目立つ。現状では空気の漏れが多いため、回数多めにポンピングする必要がある。

プランジャー全体

シリンダ内のようす

中が汚れていると、空気漏れを起こしたり、ポンプカップが摩耗しやすくなるので、ウエスを突っ込むなどしてこまめに掃除してやる必要がある。チェックバルブを外して息を勢いよく吹き込むと、中のゴミを吹き飛ばせる。

MSR燃料ボトル

燃料ボトル20OZ(590ml)

大中小の3種類あるうちの中。一番使いやすいサイズ。
ボトルの材質はアルミ。擦れて削れないようにビニールテープを巻いて保護している。

キャップはチャイルドロック機構付きが標準。押しながら回して開ける。
本来は小さな子どもが開けないようにするものだが、ザックの中に押し込んでいてもフタが緩まないという嬉しい効果もある。

ボトルの口

燃料が漏れないように、汚れを拭き取って常にキレイにしておく必要あり。

ボトルに燃料ポンプを取り付ける時は、ディップチューブの曲がりに注意する。

ディップチューブの先端から入れ、チェックバルブのL字を交わしつつ取り付けて、無理な力が加わらないようにする。

 

燃焼不良の件まとめ

何度掃除をしても燃焼不良は一向に改善せず。諦めかけていた時にようやく原因を突き止めることができた。そのときは飛び上がって喜んだ。
燃焼不良の原因はディップチューブの曲がり。非常にささいなことだった。

ガソリンストーブはメンテナンスフリーのガスストーブとは違い、こまめなメンテナンスが必要な道具。内部構造や取り扱いを理解していないと、本来の性能を引き出すことができない。逆にしっかり扱えるようになると、これ以上頼もしいストーブはない。私はもう手放せない。

オーストラリアからの帰国前、分解洗浄していたときのようす。
空港で検査官に没収されないよう、ガソリン成分を取り除くのに必死で、肝心なことを見落としていた。

当時からディップチューブの曲がりクセには気がついていたが、特に注意を払わず。こういうもんだと思っていた。

帰国後もディップチューブの曲がりを直さず使っていた。
Oリングに劣化は見られたが、交換すればまだまだ使える状態だった。

曲がりグセのついたディップチューブの向きを変えて一件落着。
以後は燃焼不良に悩まされることはなくなった。仮にあるとすれば、掃除を怠っている時だけだ。

いろいろな道具を使っていると、その道具の長所と短所、取扱いの注意点などが分かってくるようになる。物の持ち過ぎは良くないが、ある程度の種類は必要だ。

ディップチューブの向きに気をつけて使うようにしてからは、9割以上の燃料を使うことができるようになった。時にはボトルを振ってもほとんど音がしなくなるくらいまで。多くの燃料が残っていた以前とは全然違う。
燃料を残さずに使い切ることができるようになり、小さな燃料ボトルも使いやすくなった。
日帰りのような短期であれば、小さな11OZ(325ml)で十分。

今後も海外での活動では、MSRのガソリンストーブが活躍してくれることだろう。
次回の出番はXGK EXか。いや、新たな仲間にドラゴンフライも加えようか。そんなことを考えつつ、コロナ収束後の世界に新たな夢を膨らませている。

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