メカニカルディスクブレーキ(BR-CX77)の分解整備

こんにちは。からあげです。

はじめに

自転車のなかでブレーキは、駆動系とホイールに並び非常に重要なパーツの一つ。ブレーキの調子が悪ければ、安全に走ることさえままならない。

新型コロナが世界中で感染拡大するにつれて、電車・バスなどの公共交通機関を避けて自転車で移動する人が増えてきた。そうした自転車需要の増加にともない、世界中で自転車関連のパーツが不足するようになった。
チェーンやブレーキパッドなどの消耗品でさえも店舗からは姿を消し、入荷まで3ヶ月以上も待たねばならないことは普通になった。コロナ前では絶対にあり得なかったことが起きている。自転車生活を送っている私は消耗品を切らさないよう、常に気を配り予備を多めに持つようになった。

心配性な私は基本の消耗品のほか、ブレーキなどの重要パーツも予備を持っておきたいと考えるようになった。

メカニカル(機械式)ディスクブレーキ シマノ BR-CX77

ある日、ネットのとある場所で私が使用しているものと同じ型の中古ディスクブレーキを見つけた。
ロード系上位グレードのULTEGRAで確かな制動力と操作性、高級感があり、そして整備もしやすい。これまで30,000km近く走行してきてBR-CX77の良さを実感した。油圧式のフラットマウントが主流になった現在、すでに廃番になってしまっているのが残念でならない。

BR-CX77 | SHIMANO BIKE(自転車部品)-日本

 

ブレーキローターと固定ボルト、ポストマウントアダプター付き。インナーケーブル固定ボルトが1本ないほかは程度がとても良かった。

前所有者によると走行距離は500kmほど。しばらく走ったのち取り外して物置で保管していたのだとか。ローターは6本ボルトの固定方式でフロント160mm、リヤ140mmというロードバイクでよく見られる構成だ。ちょうどリヤ側のローターが160mmの6本ボルト式なので使用できる。
固定ボルトやアダプタは紛失や破損に備えて予備として保管しておくことにする。

運良く安価で手に入れたディスクブレーキだが、素性の分からないパーツは不安になる。おっさんは根っからの心配性なもんで。
そこで勉強を兼ねて分解整備することにした。以前、ブレーキパッドのパッド軸の頭をなめてしまった時、キャリパをばらしてパッド軸をプライヤで挟んで外したことがある。

今回はさらにもう一歩進んで完全に分解する。

メカニカルディスクブレーキ(BR-CX77) のパッド軸を割りピンに交換する
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新たなBR-CX77の分解整備

1個目

まずはブレーキパッドの取り外し。付いていたパッドは標準装備の「G01A」。ナロータイプのレジン(樹脂製)で、台座が放熱性の良いアルミ製。
Rピンを引き抜いてパッド軸を抜くとパッドが外れる。パッド残量は1.5mm以上でまだまだ使用できる。(使用限界は0.5mm

ディスクブレーキのキャリパを分解するには万力(バイス)はあった方がよい。
しっかり固定できて安全確実に作業を進めることができる。バイスは大きくて重たい方が安定して使いやすい。機械いじりの頼もしい助っ人だ。

そのほかはヘックスのソケットレンチ。L字型のレンチでは剛性不足で固くしまったボルトを緩めることは難しい。

アーム調整ネジを抜いてプラスチックカバーを外す。

それからキャリパ組み立てボルト2本(トルクス穴)を外してキャリパを2つに分解した。組み立てボルトは緩み止め剤が塗布され固く締め付けられていた。

以前分解したのはここまで。ここから先は未知の領域となる。

ブレーキキャリパの分解は写真撮影しながら慎重に作業を進めることをおおすすめします。
途中で忘れてしまっても写真を見て組み立てることができます。
 

BR-CX77はシングルピストン。ピストンの表側をズームで撮影する。

ピストン周りの分解を行う。ヘックス穴のボルトでアームにピストンの軸が固定されている。
プラスチックカバーを外すと見える部分だ。

横から見たようす

コイルスプリングが装着されている。

ヘックス穴のボルトを外してアームを取り外したところ。
組み立ての順番が分からなくならないように、写真撮影やメモをとりながら慎重に作業を進めたい。

ピストンの構造をしっかりと観察して頭に焼き付ける。
走行距離が少ないだけあって非常にキレイ。

コイルスプリング

取り付け方向があるのでしっかりと覚えておきたい。曲がった先が穴に嵌る。曲がりが長い方と短い方があることに気がつく。

アームの裏側

アームを外したようす

ピストンのシャフトに取り付けられている金具を外した。

金具のズーム。
こちら面は断面が丸く、反対側は平ら。
全てのキャリパは丸い方を内側(ピストン側)にして取り付けられていた。

ピストンを外すと中からボールベアリングが3個出てきた。
白いグリスが塗布されている。

ピストンのようす

鋼球が嵌っている穴に注目。穴の深さに変化が付けられている。アームを介してピストンが回転すると、鋼球が穴の深い方から浅い方に移動しピストンが押し出される仕組み。

ピストンの表面

こちら側でパッドをローターに押し付けてブレーキを掛ける。
縁にはゴムのパッキンが嵌められていて、内部のグリスが漏れないようになっている。
裏側にも小さなベアリングが嵌められていて、当たり面が自由に回転できるようになっている。

ピストンを押し出すボールベアリングが3つ。多少の傷は付いている。

今回、完全に分解したブレーキキャリパ。
掃除したのち元通りに組み立てる。

購入の穴を掃除してキレイにした。

白いグリスの代わりにシマノのプレミアムグリスを塗布する。

 

取り付け時はコイルスプリングの向きに注意する。

アーム内側の金具の向きを確認する。

摺動部にたっぷりとグリスを塗布して組み立てる。
分解時に撮影していたデジカメ画像のおかげで、迷うことなく元通りに組み立てることができた。

緩み止め剤を塗布してアームを取り付けた。

アームを動かしてピストンの動作を確認する。動作は良好、問題なし。

キャリパの片割れ。
パッド調整ネジにもグリスを塗布して組み立てる。
この調整ネジのグリスが切れると、パッドの隙間調整がしづらくなる。

キャリパ組み立てボルトは残っていた回り止め剤をそのまま生かしてグリスを塗って締め付けた。
キャリパの分解方法はディーラーマニュアルには記載がなく、締め付けトルクは不明。緩まないようにキツめに締め付けた。

 

2個目

元通り組み立てたところで、もう1個を分解整備する。
すでにブレーキパッドは取り外してある。

プラスチックカバーを外したところ。こちらもキレイ。

アームを横から見る。

組み立てボルトを外してキャリパを2つに分解した。

アームを取り外したところ。

金具の向きを確認する。
断面が平らな方が手前。丸い方が向こう側(ピストン側)になっている。

ピストンの動作原理を確認する。

ピストンの白いグリスは真新しくて汚れはごく僅か。

こちらのグリスも非常にキレイ。リヤ側に使われていたものか。

バラしたパーツはウエスで汚れをしっかりと拭き取りよく磨いた。

プレミアムグリスを惜しげもなくたっぷりと入れる。

ピストン周りにもたっぷりと塗る。

キレイになったブレーキキャリパ。新品同様の輝きが戻った。

角度を変えて観察して正しく組み立てられているか確認する。

パッド調整ネジ側

キャリパーの内側もたいへん美しくなって満足する。

アームのプラスチックカバー。右に出ているネジがアーム調整ネジ。

調整ネジでアームの可動範囲を調整して、ピストン側のパッドの隙間を調整する。

付いていたブレーキパッドはキレイに洗浄して予備として保管しておく。
パッドはピストン側の方が消耗が早い。次回は左右逆にして取り付ける。
片減りしやすいシングルピストンの場合、パッドも左右でローテーションした方が長持ちする。

 

古いキャリパの取り外し、整備済みの新しいキャリパの取り付け

分解整備した新しいブレーキキャリパを取り付ける。

自転車はサーリーのディスクトラッカー(旧型)。日常生活から旅まで支えてくれる私の大事な相棒。強靭なクロモリ製フレームに抜群の直進安定性。乗れば乗るほど体に馴染み、外観に味が出てくる。もうこいつなしでは生きられない。そう思わせてくれる素晴らしい自転車だ。サーリー、自転車屋さんありがとう!

荷物をたくさん積載しても十分な制動力を得られるように、ブレーキローターは前後とも径は160mmで統一。大きさと固定方式を揃えておくと前後でローテーションできる。負荷のかかるフロント側のローターの方が消耗しやすいので定期的にローテーションしておきたい。

これまでの走行距離は約28,000km。キャリパの本格的な分解整備は今回が初めてになる。

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フロント側

プラスチックカバーが割れてしまったので、布テープで留めている。
カバーなしだと、汚れやすいしグリスが落ちやすくなるので付けておきたい。

パッド調整ネジの文字はすっかり消えてしまっている。
前後ともパッド軸から割りピンに替えてある。

リヤ側

何度も抜き挿しできるように、インナーケーブルの末端はハンダ処理している。
エンドキャップを被せただけのインナーケーブルは一度抜くと、末端が解れて再使用できなくなる。

安全のためにもインナーケーブルは定期的に抜いてグリスを塗布しておきたい。

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裏側のようす

負荷の軽いリヤ側には中古パッドを使用して最後まで使い切るようにしている。
パーツ不足となって久しい昨今、特に大切に使いたい。

ブレーキキャリパはマウントアダプターを介してフレームに取り付けるようになっている。

反対側からも撮影する。

160mm径のポストマウント用アダプター(前用)SM-MA-F160P/S

マウントアダプターは前後マウント型式ローター径によって種類が異なるので注意したい。

横から見たようす

分解整備した新しい方のブレーキキャリパーにブレーキパッドを取り付ける。
負荷の高いフロント側には約1,000km走行の消耗が少ないパッドを装着した。

リヤ側には中古のまだまだ使えるパッドを装着した。
使用限界0.5mmに挑戦だ!

パッドとアダプターを取り付けたキャリパ。あとはフレームの台座に固定する。

前後に整備済みの新しいブレーキキャリパを取り付けたディスクトラッカー。
長年の懸案事項が一つ片付いてとても嬉しい。

フロント側

リヤ側

 

古いBR-CX77の分解整備

取り外した古い方のブレーキキャリパ。
日頃から酷使しているのに約28,000kmもよく走ってくれた。これからしっかりと整備を行ないたい。

 

フロント側

負荷の高いフロント側

汚れがたくさん付着している。こまめに掃除していてもパッドのカスで汚れてくる。

プラスチックカバーを外したところ。

まずはキャリパ組み立てボルトを外して2つに分解する。

念のためアーム固定ボルトに印を付けておいた。

アームを取り外した。

ピストン軸の金具周りのズーム。

横から見ると結構汚れている。以前、1回だけグリスを差したことがある。そのグリスに汚れが付着したようす。

ピストンを抜き出した。
白いグリスはグレーに変色しているものの残量は十分ある。
大雨のなか何度も走行しているのに、これだけのグリスが残っているのは奇跡に近い。
さすがは高品質のULTEGRAだ。

ピストン側も結構な汚れ。

ピストンのゴムパッキンを外してキレイに磨く。
このゴムパッキンがエンジン燃焼室内の気密性を高めるピストンリングのような役割を果たしている。

ゴムパッキンを外した後で見ると、ピストンの先にもベアリングが入っているのが分かる。

ベアリングを横から見る。
しばらく灯油に浸したのち、古い歯ブラシで擦ってしっかり汚れを落とした。

ピストンの当たり面は回転するようになっている。リベット留め方式のため、分解して小さいベアリングを取り出すことはできない。

キレイに洗浄した後、プレミアムグリスをたっぷりと塗布して組み立てた。

 

リヤ側

次はリヤ側の分解整備。

こまめに掃除していうえ、負荷が軽いリヤ側は比較的キレイ。

プラスチックカバーを取り外し、アームを横から見たところ。

キャリパを2つに割った。

アームを外したところ。こちらも結構汚れている。あとから差したグリスに汚れが付着しているようだ。

掃除のしづらいアームの内側は汚れがびっしりと付着している。
ウエスで丁寧に拭き取って28,000km分の汚れを落とす。

ピストンを抜き出した。白いグリスはリヤ側の方が汚れがやや少なく感じる。

ピストンのようす

元通り組み立てて分解洗浄が完了した。
見違えるほどキレイになったキャリパ1組。

裏側のようす

パッドはフレームに取り付ける際に装着することにする。

角度を変えてうっとりと眺める。
作業をした甲斐があったというもんだ。
どちらもピカピカで美しい。多少の傷や文字の剥げはいい味になる。

 

ブレーキキャリパの分解整備の感想

今回、キャリパを完全に分解して構造を知ることができた。難しくはない作業だが、万全を期すために写真を撮りながら作業を進めたい。
予備のキャリパ1組ができたことで、気持ちに余裕を持って整備を行うことができる。
今後は10,000km毎に分解整備してゆきたい。当面は予備として、パーツ取りしているうちに最終的には1組だけになるだろう。


Shimano公式ウェブサイトより BR-CX77展開図

キャリパの購入可能なパーツは外観のボルト類だけで、中身のスプリングやピストンはなし。なので予備1組はとても頼もしい。今ではパッドの予備がたくさんあるし、100,000kmまでは余裕で走れそう。