こんにちは。からあげです。
はじめに
写真:Wikipedia バランカ・デル・コブレのページより
メキシコ北西部カッパー・キャニオン (Copper Canyon 銅渓谷) でひっそりと暮らす先住民族「タラウマラ族(ララムリ)」は、日常的に長距離を走ることから走る民族と言われている。
90年代ウルトラレースで優勝など上位独占をするようになると、彼らの噂が広まり始める。
2009年アメリカで発行部数300万以上の大ベストセラーとなった「Born to Run(走るために生まれた)」で紹介されて、一躍世界的に有名になる。
日本で同書が出版されたのは翌年の2010年。当時私はまだ足を痛めておらず、毎日10km以上走り続けていた時で、本を手にすると夢中になって読んだのだった。
その彼らが履いていたのが、自動車の廃タイヤで作ったワラーチと呼ばれるサンダルだ。傷んできたサンダルを買い換えようと、耐久性のあるものを探しているうちに、記憶に残るワラーチが出てきた。
単に既製品を買うだけではつまらない。そこで今回は廃タイヤを使ったサンダルの自作に挑戦してみることにした。
ネットで検索してみると、ビブラムソールのシートを素材にして作ったものが数多く出てきた。たしかに既製品のシートを使えば手軽に作ることができるが、できればタラウマラ族のように廃品をリサイクルして作りたい。
廃タイヤの入手
サンダルの素材には、軽量なオートバイのタイヤが良いらしい。バイク屋さんめぐりをして廃タイヤを貰ってきた。
自転車生活をしている私は、自転車が日常の足。日本全国、自転車に乗ってどこへでも出かける。
廃品が欲しいときは、電話ではなく直接行ってお願いするのがポイント。
電話で面倒くさいことを言うと断られやすい。邪魔にならないように、平日の暇な時間帯を選んで行く。捨てるものであれば、丁寧にお願いするとたいてい承諾してくれる。
これまでペール缶や木製パレットなど、数々の廃品を無料で入手してきた。恥ずかしがっていてはダメだ。
2軒目で廃タイヤを入手することに成功。店先で積付け方法をあれこれ試してみると、リアキャリアにロープで縛るのがベストな方法だった。自転車に荷物を載せる時、キャリアがあると非常に便利。
タイヤを縛り付けると、ペダルとのクリアランスがなくなって踵に当たるようになってしまった。足の位置をずらしての漕ぎづらいペダリングとなり、家に戻るまでに行きの倍以上の時間がかかった。
貰ってきたタイヤはオートバイ用のスポーツタイヤ(後輪)で、薄っぺらな扁平タイヤだった。
ダンロップのスポーツマックス 140/60R18。
タイヤ溝は中央部が若干残っている状態だった。サンダルの素材として十分。
タイヤの解体
日が暮れてしまったので、明るい物置内でシートを拡げて作業をすることにした。
まずはタイヤを解体する。
解体作業には、切れ味の良いナイフと革手袋は必要。
今回は替刃式のカッターナイフを用いる。切れ味の良いカッターナイフでも、力を入れる必要があった。
タイヤサイドにカッターナイフの刃を入れて切ってゆく。
タイヤはサイドでも硬い。何度も刃を往復させながら時間を掛けて切ってゆく。
危険な作業なので慎重に行う。
タイヤの加工は手の握力を消耗する作業。もう二度とやりたくないというのが本音。
サイドを切り離した。
片方を切り終えると要領が分かって、反対側を切るのには大して時間がかからなかった。
カッターナイフでカットした断面を拡大する。
サイド部分にはスチールベルトが内蔵されておらず、比較的切りやりやすかった。
写真で見えるのはカーカスと呼ばれる繊維状の補強材。カッターナイフでも楽に切る事ができる。
しかし、問題はトレッド面。タイヤの強度を上げるために、スチールベルトと呼ばれる金属製のワイヤーが内蔵されている。これが非常に硬くて厄介だ。
ダンロップ(タイヤの基礎知識 基礎知識7 タイヤの構造と名称)
グッドイヤー(ラジアル構造とバイアス構造の違い)
ブリジストン(タイヤの基本構造)
タイヤのトレッド面を切るために、大型のワイヤーカッターを使用した。
実家の物置には、なぜかこんな物まで置いてある。
トレッド面の断面図。内蔵されているスチールベルトが見える。
タイヤを拡げて足を載せてみる。うむ、大きさは十分だ。
タイヤをぶつ切りにしたサンダルの原型。
これで素材の下処理が終わった。
しかし、本番はこれから。
サイドの断面。
左端がビードワイヤー。太いワイヤーが束になって入っている。これを切るためには大型のワイヤーカッターが必要。小型のペンチでは全く刃が立たない。
サンダルの形にタイヤを切る
サンダルの型とりを行う。
素足で乗ってやや大きめにペイントマーカーで線を引く。
型とりを終えたところ。
穴を空けてロープを通す場所に印を付けておいた。
ハサミでは刃が立たないので、電動工具のディスクグラインダーを使用することにした。
ディスクは鉄工用の切断砥石を選択した。
作業ではスチールベルトの破片が飛び散るので、保護メガネは絶対に着用すること。万が一目に入ると、失明のおそれがある。メガネをかけていても、破片は壁に当たると跳ね返って、横の隙間から目に入るかもしれない。
紹介する下の商品は、安くてメガネの上から装着可能でおすすめ。ゴーグルタイプほどの高い防護性能はないが、一般の作業にはこれで十分。
バイスで挟んでタイヤ片を固定した。
これで作業の準備が整った。さあて切ろうか。
ディスクグラインダーで切り始めると、大きな音とともにゴムの焼ける嫌な匂いが周辺に立ち込める。大きな音の割には全然切れない。
気がつくと、ディスクが丸坊主になっていた。
さっき新しいものに替えたばかりなのに。
右が新品のディスク、左が使用済み。
鉄鋼用でも、あっという間に削れて小さくなってしまう。
スチールベルト内蔵のタイヤは、加工しづらいのが欠点だ。残念なことに今のタイヤはスチールベルトが入っているものがほとんど。
時間を掛けて少しずつ削ってようやくサンダルの形になってきた。
ここまで形を整えるのに苦労した。
周囲にはゴム片が散ってとても汚らしく見える。これが石油製品の真の姿だ。
片足だけで手持ちのディスクを全て使い切ってしまったので、ホームセンターに買いに走った。新品に交換しても、あっという間になくなる。
いくらタダの廃タイヤでも、労力とコストを考えると全然割に合わない気がする。
ホームセンターで新たに買ってきた切断用ディスク。
何度も行かないで済むようにと、多めに買ってきた。(このようにして次第に道具が増えてくる。)
少しでも長持ちするように、ステンレス用の硬い物を選んだ。
鉄用のものと比べると、ずいぶんと減りにくくなった。しかし、1個300円以上もする高級な代物。大事に使おう。
ようやく両足ともに足型に切るとることができた。
タイヤの加工は手間暇が掛かる。時間がないとできない。
周囲に騒音と悪臭とゴム片を撒き散らした電動工具での作業。
作業台はすっかり汚れて、私は疲れ切った。
替えたステンレスの刃は消耗したが、まだまだ使えそうだ。
安物の刃を頻繁に替えるより、多少高くても硬いステンレス用を使った方が、結果的に安上がりになることが分かった。
余った刃はまた次回の作業で使うことにしよう。
ディスクグラインダーの切断用ディスクで切ったタイヤの断面。
摩擦熱でゴムが焼けていて、スチールベルトのワイヤーがところどころ飛び出ている。
このままだと見た目が悪いし、ワイヤーで足を怪我をするので、きれいに削って断面を整えることにした。
切断用から研磨用のディスクに替えて作業を行った。
合板2枚で挟んでしっかりとバイスに固定した。
タイヤを足型にカットして断面を整える作業は3時間以上も掛かった。
前編はここまで。後編に続く。