乗鞍・上高地ツーリング2020【前編】〜釜トンネルを抜けてゆけ〜

こんにちは。からあげです。

 

小屋で待てども待てども明けてくれない2020年の梅雨。来る日も来る日もゴロゴロしたり、裁縫したり、本を読んだりして過ごしていた。自分で書いておきながらふと思った。私はただの怠け者ではないか!

いや、そんなことはない。他人には遊んで見えるが、人目を忍んでせっせと働いているのだ。まあ、どうでもいい小話はコレくらいにしておこう。

 

小屋で引きこもり同然の生活をしていたところ、ついに雨が上がってくれた。長続きしない晴れ間だと百も承知だったが、じっとしているのは我慢の限界だった。荷物をまとめて文字通り小屋を飛び出した。

これが私の愛車、サーリー ディスクトラッカーだ。荷物を満載してもビクともしないタフなやつ。

ディスクブレーキ搭載で雨の日でも安心。私のためのツーリングバイクと言っても過言ではない。おっさんの最大の財産、ありあまる時間を惜しげもなくつぎ込み、自分好みに各部改造を施している。

日常の足であり、遊び道具でもある。2019年オーストラリアを13,000kmともに旅をした旅の相棒だ。

いやっほ〜。脳内で雄叫びをあげ、無意味に高回転までペダルを回し、日頃の鬱憤を晴らすおっさん。まずは第一関門の坂室トンネルを通過した。

前後サイドバッグを装着して自転車の横幅はおよそ60cm。無難にトンネル内は広い歩道(幅1.5〜2m)を走行した。茅野方面は下りで車道を走れないことはないが、ドライバーを無闇に刺激するのは得策ではない。生殺与奪の権をドライバーたちに握られているサイクリストだ。耐えるべき時は耐えなければならない。

今回のツーリングは特に楽しさ優先したい。そんな気持ちの現れでもあった。

国道20号線沿いのショピングセンターにあるデリシア。茅野を抜ける際に寄ることが多いスーパー。自転車を駐めるとき、荷物を積載したツーリング仕様のMTB2台を見つけた。

誰なんだろう?そう思いながら店内に入ると、イートインコーナーで休憩する外国人カップルを発見した。話しかけようかと思いつつも、日本語が全く通じなかったらどうしようと恐怖に囚われてしまう。長期間、小屋にこもっていた影響か、おっさんは引きこもりモードに入っていたようだ。

ジャンボチョコモナカを頬張りながら、迷い続けるのだった。
結局、外国人カップルに話しかけることはできず。

今日は天気がとてもいい。まっすぐ松本に向かうのは非常に勿体無い。
寄り道こそ自転車ツーリングの醍醐味だ。すべて計画通りではつまらない。

ということでやって来たのは諏訪大社上社本宮。勇壮な御柱(おんばしら)祭りが行われる神社として全国的に有名なところ。

コロナ禍のためか、人はとても少ない。のんびりゆっくり神社内を散策することができた。

苔むした手水舎

いったい何年掛かって苔まみれになったのだろう。実に雰囲気がいい。

巨大な太鼓。祭りに使用されているものか。古いものも置かれていた。

境内に立てられている御柱。樹齢150年以上、選び抜かれたモミに大木が使用される。

長さ17m超。近寄って見上げると首が痛くなってくる。
御柱をなでなでしてパワーを頂戴する。

参道の屋台はブルーシートに覆われた状態で人気はなし

諏訪大社からそのまま県道を走って諏訪湖のほとりに出た。
モクモクと湧く入道雲。夏の到来を感じさせる。ここでおっさんのテンションは最大になる。

湖岸のサイクリングロードをゆく。
開放的で非常に気持ちいい。

味のある標識

見ているだけで楽しくなってくる。別に標識マニアではない。

のんびりサイクリングロードを走って諏訪湖の出口にある水門にやって来た。
久しぶりに日差しを浴びてちょいと疲れた。

日陰があることだし、少し休んでゆくか。急ぐ旅でもないし。

水門橋の欄干に自転車を立て掛けて休憩する。
道行く人たちものんびりしていて、久しぶりの晴れ間を楽しんでいるように見える。

近くの公園の水道で衣類を洗う。1月風呂に入らずとも平気なおっさんでも、根はキレイ好きなのだ!こまめに洗濯して身なりを整える。だが勝負どころでは構っていられない。

水門のようす

時間があるのでじっくり見学させてもらう。
諏訪湖は天竜川の水源でもある。ここから流れ出た水は太平洋遠州灘に注ぐ。

小型船であれば、通過可能な水門。なんでもパナマ運河方式を採用しているのだとか。
うむ〜、実に興味深い。

運河のようす

幅は5m程度。

長い長い休憩のあと、フラフラっと諏訪湖の湖岸を散策する。
すると公園のあちこちにマスク着用の看板が設置されている。

ふと見ると、公園の芝生に寝転がっている例の外国人カップルを発見する。
実に気持ち良さそう。ここでの声掛けは野暮というものだろう。

自分は自分の道をゆく。すいすい〜っと軽快に進む。

3密回避に自転車での移動は最適。コロナ禍では自転車旅が適していると思うのだが、このあと旅をしているサイクリストは全く見かけず。

それはそうと、いい感じの東屋があるではないか。公園内のあちこちに。

公園内に足湯を発見する。
誰も浸かっていない足湯を独り占めする。

足だけでもキレイになって良かった。

そのあと、夕方まで時間をつぶして諏訪湖の湖畔で野宿した。
空を見上げると次第に雲が厚みを増してきた。ここは無難に雨に濡れない屋根下で泊まることにした。

翌日は雨。夜中の激しい雨音で何度か目が覚めた。
昨日とは一転して肌寒い一日の始まりだ。

ここで秘密兵器を投入する。以前、開発したヤブコギエプロンを改造したレインスカートだ。いくら肌寒いとは言え、セパレート式のカッパ上下を着て峠越えをすると、暑さで全身汗でずぶ濡れとなる。

実に良い品だ。などと自画自賛しつつ、塩尻峠(標高999m)を上ってゆく。

 

峠の下り坂ではディスクブレーキが威力を発揮し、スピードを抑えてゆっくりと下る。
2019年オーストラリアを走ったタイヤで丸坊主のマラソンプラス。水たまりに突っ込むと、コントロール不能に陥る危険性がある。

大雨のなか下っていると、全身が凍えてきた。たまらず途中の道の駅に退避する。
そしてトンネル内の歩道で休憩する。

その後、東屋に移動して休憩する。
熱いお茶を飲んで体を温める。一枚上着を着て出発する。

塩尻、高出交差点を右に折れて松本方面へ北上する。
雨は峠を過ぎたようで次第に小ぶりになってきた。
こんなことだったら、もう少し遅く出るんだった!とは思いもしたが、人目を避けなければならない野宿者の哀しい定め。人気のない山奥でもない限り、日の出ともに出発することにしている。これをおっさん的自主規制と言う。

松本の中心部までやって来ると、献血ルームに逃げ込む。
たしかキャンプ場に直行したように書いていたような気がするが、いくつか寄り道したことを思い出した。

ここは細かいことはどうでもいい。濡れた体を乾かすには時間の掛かる成分献血が適している。健康だけが取り柄の私のささやかな社会貢献でもある。

ジュースにお菓子に漫画。いやあ天国天国。

お腹が空いたので駅前の松屋で空腹を満たす。

カウンターにはパーテーションが設置されている。

食料の買い出しを済ませて、波田リバーサイドキャンプ場にやって来た。
1泊200円の料金が最大の魅力。水道と仮設トイレのみの簡素なところだが、野宿者には堂々とテントを張れるだけでも非常に嬉しい。

ここで一週間ほど滞在し、上高地滞在中の食料の発送、松本観光などをしてゆっくり過ごした。

 

旅立ちの朝。
梅雨明けが待ちきれなくなってついに出発を決めた。
雨が止んでいるうちにテントを高速で撤収し荷物をまとめる。久しぶりの撤収だと考える時間が多くなる。

よし、出発だ!

早朝の波田集落内を走行する。本日の目的地は上高地で40km弱の距離。さて、天気が保ってくれるどうか。

あらかじめ上高地に郵便局留めで食料を送ってあるので携帯する食料は少なめ。
休養バッチリなうえ車体が軽いため軽快に走ることができる。交通量が少ないうちに距離を稼ぐとしようか。

松本電鉄新島々(しんしましま)駅。語感が面白い駅名だ。ついつい口ずさんでしまう。
駅前はバスターミナルとなっている。

ふと見るとバスで運ばれる新聞の朝刊が積まれていた。
これは田舎ではよくあること。

新島々駅でしばしの休憩をとったあと、再び走り始める。
今日はやけに調子がいい。などとご機嫌で走っていると、電光掲示板に「旧道安房峠通行止め」の表示あり。上高地のあとは安房峠を越えて高山に抜けようかなとも考えていたのでガックリときた。安房峠のトンネルは自動車専用で自転車は通れない。

じゃあ、乗鞍エコーラインからスカイラインに抜けて通行止め区間を迂回しようか。そんなことも考えたが、のちに乗鞍スカイラインも通行止めとなっていることを知る。前方に垂れ込める暗雲が不吉を予感させる。

考えるな!今は何も考えずにペダルを回せ!などと自分を鼓舞し続ける。

安曇集落に向かって下ってゆく。
サイクリストにとってブレーキの要らない下り坂は最高のプレゼント。安房峠通行止めの件はひとまず忘れる。

道の駅「風穴の里」でしばらく休んだあとで先に進む。
いよいよ本格的な上り坂が始まった。
重装備のツーリング車だが、最大22×36Tの超ローギヤで余裕そのもの。立ちこぎとは無縁になっている。

奈川渡(ながと)ダム手前のトンネル内の分岐に要注意。
上高地・高山方面はそのまま右方向へ。

このあと歩道なしの路肩の狭いトンネルが続く。リヤライトは必須、反射ベスト着用が望ましい。トンネル内で大型車に抜かれる時ほど怖いことはない。迫りくる轟音についオーバーペースで走ってしまう。上りが続くトンネル内でバテないようにしたい。フラつきは事故の元。

トンネルを抜けると奈川渡ダムに出る。
自転車を駐めてダムを見学することにした。

巨大なダム

堰堤の上から下を見下ろす。かなりの高度感がある。

上高地方面から松本方面を見る。
左の白い建物は東京電力(TEPCO)でダムの資料が展示されている。
まだ早い時間のため開館しておらず。

奈川渡ダムから1つ目の奈川渡トンネルを走行中。
最近路面の掃除がされたばかりのようで路面状態はとても良かった。

コロナ禍のためか交通量、特に大型車が少なめでとても走りやすかった。普段は路面状態が悪いうえに、夏休み期間中は交通量が多い。

小雨のなか、沢渡(さわんど)駐車場に到着した。
勝手知ったるホームグラウンドのような場所。目指すは足湯のある第2駐車場だ。

誰もいない足湯。広々かつ屋根付きでゆっくりと浸かることができる。

足湯に浸かって疲労回復する。
こうして足だけはキレイになってゆく。

小腹が空いたときは何か食べておく。
強い空腹を感じたときにはすでに手遅れ。かと言って食べ過ぎては、すぐに食べるものがなくなってしまう。

かばんを漁って焼きそばパンを取り出した。うむ、なかなか美味いな。

嫌なことに沢渡を出るころになって雨脚が強まった。次第に激しさを増し、土砂降りの大雨となる。

そんな時、雨の当たらないトンネル内を走っているとホッと一息付ける。交通量が少ないからこそ寛げるトンネル。めったにないことだ。

前方にようやく中の湯の交差点が見えてきた。

すぐにトンネル入口横になる作業道の入口に逃げ込む。
すでに全身ずぶ濡れとなっている。10年もののゴアテックスのカッパでは防水性が落ちている。

中の湯交差点近くにある釜トンネル入口。ここから先は自転車を除き一般車通行止め。
上高地のバスターミナルまでは自転車で行くことができる。
バスターミナルから先は自転車から降りて押し歩きになるが、小梨平キャンプ場まで行けるかは現地に行ってみないと分からない。

作業道入口に行こうとした時、警備員が近寄って来て注意書きが書かれた紙を渡される。激しい雨で何を言っているのか聞き取れず。

雨の当たらない場所まで行ってようやく話をすることができた。
BTから先の小梨平キャンプ場までは押し歩きで行けるか尋ねてみたところ、現地で聞いてくれと、見るからに面倒くさそうに返事をされた。

この釜トンネルは2005年に開通した新しいトンネル。トンネルの両側には歩道が整備されているが、幅が狭いためサイドバッグを付けたツーリング車の走行は危険だ。全長1310m、最大勾配10.9%で激坂というわけではないが、暗くて圧迫感があるため実際よりも急に感じる。

バス・タクシー、許可車両のみのため、自転車にはとても優しい。

中の湯交差点のようす

いつまで経っても雨は小ぶりにならず。

釜トンネル内を上ってゆく。路肩が狭い片側1車線でセンターポールなし。左右交互に退避スペースが整備されている。トンネル内は明るい。

途中で休みたくなった時は退避スペースに逃げ込む。

釜トンネルの次は上高地トンネルを抜ける。
トンネルの中間くらいが最高点になっていて釜トンネルよりもかなり楽。

上高地トンネルも両側に歩道ありの片側1車線でセンターポールなし。

上高地トンネルを抜けると、バスターミナルまではあと一息。きつい上り坂はなし。

そして10時過ぎにバスターミナルに到着した。

閑散としているバスターミナル。観光客は疎らでバスが減便されていた。
目を光らせている警備員がすっ飛んで来るかと思いきや、誰もやって来ず。

屋根下で休憩中。まだ梅雨明け前だとはいえ、7月末とは思えないほど閑散としている。

さあて、問題はここから。バスターミナルから先の小梨平キャンプ場まで自転車を押し歩きできるかどうか。
インフォメーションセンター隣の登山相談所で聞いてみると、あっさりと押して歩くなら大丈夫との返事を頂く。

やはりそうだよな。押して歩けば荷物と同じ。リヤカーを引くのと同じこと。

増水中の梓川沿いを歩く。
今まで見たこともない茶色の濁流が流れている。落ちたら大正池まで流されてしまうだろう。

上高地と言えば河童橋。カッパを着た登山者と傘をさした観光客が疎らにいるのみ。
人気の観光地とは全く思えない。橋の向こうの岳沢には分厚い雲がかかっている。

スロープを通って橋の上まで自転車を押してゆく。
通常の時期なら橋の上には人がいっぱいいて自転車でゆくのは難しい。

大雨のなか橋の上で記念撮影を行った。

さらに奥に進み、キャンプ場手前のビジターセンターの広大な軒下で雨宿りする。
まだ時間は昼前。急ぐわけでもないので雨が上がるまでゆっくりする。

館内に入るにはマスク着用する必要がある。何度も来たことがあるのでさっと見ただけで外に出る。コロナ禍では外にいる方が寛げる。

2時間近く経つとようやく雨が上がってくれた。
空を見上げると一時的に止んでいるだけのようす。すぐさまキャンプ場の受け付けに行った。その際、テントの横に自転車を駐めてもよいか尋ねると、OKだった。

キャンプ場内を徘徊して、静かで下が泥濘んでいない場所を選んだ。
メインストリートから離れた一番奥。笹薮を背負った場所にテントを張った。
自転車にはもちろんカバーを掛ける。

キャンプ場内も閑散としていて到着日は全部で30張り程度だった。テントのすぐ横に自転車を駐めておいても全く問題なし。

このあとテントがねずみに齧られることになる。

 

つづく