コロナ禍の軽量装備による槍北穂縦走2020【前編】~

こんにちは。からあげです。

軽装登山の始まり

今思い返してみると、テント泊で登山をするようになったのは30代になってから。
小屋泊まりは金が掛かるうえ、同部屋の宿泊客とのコミュニケーションが鬱陶しい。また基本相部屋なので、疲れたからと言って自分だけが先に明かりを消して眠るわけにもいかない。さらに見知らぬ人間のイビキを聞かされるのも非常に苦痛だ。思わず首を締めたくなる。

それで自然と、テントを担いで登山をするようになったのだった。

初めのころ使っていたのはアライのエアライズ2。定番の3シーズン用山岳テントの2人用。雨に降られてテント内に閉じ込められても、狭苦しく感じないように余裕を持って2人用を選択した。

当時、山岳テントと言えば、エアライズというほどの人気っぷりだった。どこを向いてもエアライズ。そのため、混雑したテント場では自分のテントがわからなくなるという、笑えない状況がたびたび発生した。実に懐かしい。

この頃の装備は大は小を兼ねるということで、多少重たくとも大きいものを好んで使っていた。
肩に食い込むショルダーストラップ。自分の半分ほどの大きがあるバックパックを背負って歩くのが誇らしかった。

2012年 五竜岳~鹿島槍ヶ岳縦走

時は流れて2012年。私の軽量化への道のりはここから始まった。
扇沢から黒部渓谷を抜けて五竜岳~鹿島槍ヶ岳へと縦走し、そして扇沢へと戻る周回コースの4泊5日。

人生が行き詰まっていた当時の私は、現実逃避するために登山にのめり込んでいた。

酒を飲みながら登山地図でプランを練る。「いつもの重装備で4泊5日は厳しいのではないか?」そんな疑念が湧いてきた。仕事の都合上、予備日はとって1日。遅刻・欠勤は絶対に許されない。
暴飲暴食の不摂生が祟り体力はガタ落ち。だが登山のためにトレーニングなんかしたくはない。そんな暇があるなら酒を飲みたい!

ならば軽量化あるのみ。少し前から試験運用していたツエルトに確かな手応えを感じていた。この4泊5日はツエルトを含めた軽装備で乗り切ることにした。

容量35Lのバックパックに全てを詰め込んでおよそ14kg。(ただし、水は除く。)これにヘルメットが加わる。この時ヘルメットは被っていた。

食料は主食のアルファー米のほかフリーズドライ食品。行動食はミックスナッツという豪華版。
避難小屋以外では小屋に泊まりはしなかったものの、小屋では食事をとることもあった。
金にものを言わせた贅沢な登山だ。今の私では考えられない。

4泊5日の行程を終えて余裕で扇沢に戻った私は、軽量化の効果をはっきりと体感する。その後ツエルト泊ばかりするようになった。

ツエルトはアライのスーパーライトツエルト1、フライシート付き。ツエルト単体では雨に弱く耐風性も低いので、フライシートとセットで使用していた。

これで何度も嵐を乗り切り、自信を持つようになる。快適なテントでなくともツエルトで十分だと。

 

2017年パシフィック・クレスト・トレイル

さらに時が流れて2017年。アメリカ西海岸のパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)に挑戦することにした。

PCTの全長はおよそ4,200km。約5ヶ月で踏破するには、装備の軽量化が絶対に欠かせない。重たい市販品の装備ではなしに、自作した軽量装備を数多く投入することにした。

一番の目玉は超軽量のバックパック。極薄の生地で作られたパックはおよそ360g。市販品よりも1kg以上は軽い。ただし、取り扱いは慎重に。耐久性を犠牲にした極薄生地のパックは非常に繊細。引きずったり、放り投げたりするのは厳禁だ。赤子のように優しく扱わねばならない。傷みを見つけたら早めに補修。終盤の頃になると、度々補修の必要に迫られた。

これが荷物のほぼ全て。
左端の箱はトレイル上で不要な荷物。行く先々へ郵便局留めなどで送る。場所によっては、別な箱に食料をたくさん詰めて送ることもある。

不要な荷物は処分し、必要なものだけを持ち歩く。道具は体の一部と化し、無意識で扱えるようになる。歩くマシーンと化したおっさんは、どこまでも続くトレイルを日々夢遊病者のように歩いたのだった。

カウボーイキャンプ

PCTでの宿泊はおもに3パターン。
降雨のおそれがない時は、シェルターなしでシートを敷いただけの露天で眠る。
これを俗にカウボーイキャンプという。

自然との一体感を味わえる。だが病みつきとなるというわけではなく、夜中になって風が吹きだすと寒い思いをする。設営・撤収の手間が掛からないのが最大のメリット。しかし軽量化された道具は風が大敵。飛ばされないように気をつける必要がある。

暗くなるまで歩いてトレイル脇でシートを広げてゴロンと横になる。そんな行き倒れのようなハイカーが多数いた。目を瞑った瞬間に意識を失い朝まで熟睡する。

ポンチョタープによるキャンプ

ポンチョタープによる宿泊。

パックカバーが不要なポンチョ。タープにもなるのがポイント。プロモンテのアンアクターという市販品をほぼコピーした。(劣化版コピー?)
屋根があるだけで安心できる。急に雨が降ってきてもずぶ濡れになることはない。

南部の乾燥地帯では、空模様とその日の気分でポンチョタープかカウボーイにするかを決めた。

ポンチョとして使いやすくするために(裾を引きずらないように)小さくすると、タープとしては使いづらくなる。その微妙なさじ加減が難しい。
雨に濡れると生地が弛み内部空間が狭くなる。ラーメンのスープを全部飲むには寝そべりながら、クッカーを傾ける必要があった。(お陰で腹筋が鍛えられた)

 

ツエルト泊

メインの宿泊方法はツエルト。防水透湿性のある生地で内部結露は少なく、自然に溶け込むモスグリーンで心落ち着く。
従来品よりも全長が20cmも長くなったツエルト2ロング。ファイントラックとハイカーズデポのコラボによって生まれたもの。

手持ちのテントポールを使用したツエルト用ポール2本とセットで使用した。
PCT5ヶ月、のちの放浪1ヶ月、合わせて半年をほぼ野宿で乗り切った。
ツエルトの大きさは体で覚えてしまい、立木や石の間の設営適地を瞬時に探し出すことが可能となった。人体の不思議を感じたときだった。
今でもツエルト2ロングを使うと、当時の感覚がすぐに蘇ってくる。

 

2020年夏、コロナ禍での槍ヶ岳~北穂高岳縦走

登山準備

2020年7月下旬ころ、上高地小梨平キャンプ場に滞在して梅雨明けを待っていた。
天気図と傍観天気、高性能天気予報アプリWindyにより、梅雨明けが間近と察知した。河童橋から望む焼岳も、次第に姿を現してきた。

毎日雨が降ったり止んだりの天気が続いてその間、テントに引きこもったり、ぶらぶら周囲を徘徊したりして暇を潰していたのだった。

 

雨が上がってしばらく経ったところで登山準備を始める。

今回も軽装登山。自転車では多くの荷物は運べない。常に取捨選択を迫られる。
テントは使わない。テントが乾いたところでカバンにしまい、代わりにレジャーシートとポンチョタープを広げてねぐらとする。不要な荷物は自転車のカバンに詰めて、自転車ごとキャンプ場に預けた。

ツキノワグマが毎晩のように出没する状況では、人気のないただの駐輪場に停めるのは無謀すぎる。食料の入った荷物を荒らされるだけでなく、自転車もボロボロにされるおそれがある。

自転車旅行者定番のオルトリーブの防水バッグは確かに水濡れには強いが、濡れたままのものを入れると高い防水性の故に中の荷物がカビてしまう。雨が降り続く時期はカビは避けられない。

2018年の北海道ツーリングではテントにカビが生えた。

始めレジャーシート1枚だけにしようかと思ったが、あまりに窮屈なのでポンチョタープを継ぎ足した。タープの設営にはたくさんのロープが必要だ。ロープは汎用性が高く、繰り返し使用可能。使い手次第で変幻自在に姿を変える。

ポールは1本使用。立木の間隔が長かったので、中央につっかえ棒を入れた。

ねぐらの準備が整ったところで衣類の修理を済ませておく。傷んでいるのを見つけたら早め早めの修理が基本。
自転車に乗るようになってからは、冬でもハーフパンツの私。ロングパンツは放熱性が悪くてすぐにオーバーヒートを起こす。ハーフパンツは防御力が落ちるが、涼しい方が運転に集中できて、結果より安全となる。要はコケなければいいのだ。厚着のままでは自転車には乗れないし、乗りたくはない。

とりあえず手縫いで簡単に直しておいて、実家に行った時にミシンで本格的に修理する。オーストラリアの「Target.」、日本だと「しまむら」のような格安衣料品店。$28(日本円でおよそ2,000円)で購入したもの。もうかれこれ10,000km以上は走っているのではないだろうか。

サドルが当たる部分や擦れやすいところに内側から布を当てて補強してある。あちこち継ぎ接ぎだらけ。濡れると乾きにくい綿100%だが、体に馴染んでいて(皮膚の一部のような感じ)着心地が良くて当分の間はウエスにする気にはなれない。

 

予定では2泊3日。余分に1日分の食料を持って最大3泊4日行動できるようにした。
途中で気が変わってルート変更も考えられる。

主食は袋ラーメンとアルファー米。ラーメンには切り餅と大麦を入れて増量する。
頂きもののお陰で今回は大幅に軽くすることができた。

フリーズドライ食品を食べるのは何年ぶりだろうか?フリーになってからは食べた記憶が全くない。

 

登山初日(小梨平~槍沢~槍ヶ岳)

朝早起きして朝食を済ませて、荷物をまとめて小梨平を4時に出発する。

これが今回2泊3日の荷物。自転車用ヘルメットが中に入っている。
超軽量の自作バックパックに、ポンチョタープとレジャーシート。岩場も歩くのでカッパの上着も持つことにした。ポンチョだと風でめくれて歩きにくいし、足元が見づらくて危険。

ポールはトレラン用の軽量のもの。正しく使わないとすぐに傷めてしまう。主に横尾までの平地と登りで使用する。

電子機器は必要最低限。バッテリーを消耗するアクションカメラのGoProは置いてゆく。

 

始めはなるべくゆっくり歩いて体調を整える。
横尾には6時過ぎに到着。ゆっくりと言いながら、かなりのハイペースで歩いてしまった。

テントに引きこもっていたためか、よほど体力が余っていたのだろう。調子が良い時は無理に抑え過ぎない。自分でも何を言っているのか分からなくなってきたぞ。

いいんだ!自分のペースで歩くのなら。

忘れないうちに登山届を提出しておく。昨日、上高地で出してくるのを忘れた。

横尾から槍沢に入って、このまま槍沢沿いを登って槍ヶ岳を目指す。

槍沢ロッジで小休憩したあと、しばらく歩いて槍沢キャンプ場にたどり着く。
小屋からはかなりの距離があって発電機の音は聞こえない。とても静かなキャンプ地だ。
冬季小屋の周囲が石垣で囲まれている。

毎回通る度に今度ここで泊まろうと思うのだが、いつも早すぎる時間帯のため通り過ぎてしまう。こ、今度こそ!

青空に向かって登ってゆく。
梅雨明け当日に出発できるとは非常に気分がいい。
スカッとした清々しい青空が広がる。

だが今回の梅雨明け直後の好天は長続きはしないようす。保って3,4日か。
朝一番に出発したお陰で登山者はかなり少なめ。軽量な荷物のお影でペースが上がる。

槍沢上部の最終水場で水を汲む。
季節によって場所が異なるので、早め早めに汲んでおいたほうがよい。頑張り過ぎて通りぎてしまい30分ほど時間を無駄にする。

雪解け水は冷たくとてもおいしい。今日泊まる槍ヶ岳山荘では水を買えるが、1L200円もするし、消毒された雨水。1時間ちょっとあれば行けるので、アルバイトと思って水を担いでゆく。

プラティパスとお茶のペットボトル、そして自転車用水ボトルに詰めて全部で5L。小屋で買うと1,000円だ。
あとは胃袋に1Lほど詰め込んでおく。

意外にこの飲み溜めが効く。当分水が飲みたくないほど飲んでおくと、水の節約になる。飲み溜め食い溜めも2017年のPCTで学んだ。あまりに無理をすると体調を崩すのでほどほどに。

これで明日の宿泊地、涸沢までもつだろう。足りなくなったら、途中の稜線上の雪渓で汲むか、必要最低限の量を南岳小屋で買えばいい。

さあて槍ヶ岳山荘が見えてきたぞ。あと一息だ。
高度とともに気分も上がってくる。

後ろを振り返る。
青空はいつの間にかガスに代わっていた。

殺生(せっしょう)ヒュッテ経由で登ることにした。

槍ヶ岳山荘から20分ほど下ったところにある小屋。天気が良ければ、誰でも見晴らしの良い槍ヶ岳山荘で泊まりたいと思うもの。その槍ヶ岳山荘のテント場は超人気スポットで先着順。遅い到着で泊まれない時に渋々泊まることになる。

だが、一旦天気が荒れれば、山陰にある殺生ヒュッテのありがたみを知ることとなるだろう。ここにも今度こそ泊まろうと思っているが、一度も泊まったことがない。槍ヶ岳山荘が混雑していても、運良くギリギリ泊まれるのだ。そう、おっさんは強運の持ち主。

コロナ禍であることもあり、客は全く見当たらず。

 

殺生ヒュッテのテント場のようす

テントはわずかに一張。昼前だからこんなものか。

殺生ヒュッテからメルメットを被る。東鎌尾根の稜線上に出ると急に険しくなる。

槍ヶ岳は目前だ。

登山道のようす。

 

槍ヶ岳山荘着

11時過ぎに槍ヶ岳山荘に到着する。
普段は座るところがないくらいに賑わっているが、2020年はスカスカ。

小屋に着いたらまずはテントの受付を済ませる。

ここ槍ヶ岳山荘のテント場は先着順場所は小屋指定。人数とテントの大きさも考慮されるが、基本早ければ早いほど良い場所になる。

小屋内ではマスク着用。

 

アルファベットGの木札を貰って喜ぶおっさん。
いつもは良くても20番台。初のアルファベット。連泊しなければ無理だと思っていた。

テント場のようす

テント疎らでスカスカの状態。

下から見上げる。

Gの場所は槍ヶ岳と反対側の大喰岳側だった。実は槍ヶ岳よりも大喰岳の方が好きな私。
岩の影になるようにレジャーシートを張った。

岩と岩の間にメインロープを張り、そこにシートを被せ、4隅を張ってねぐらの完成。
あまり強く張るとシートが破れる可能性があるのでほどほどにした。

下から見たようす。なんだあれは!

周囲の岩が天然の風よけになっている。

使用したロープは3mmのナイロンロープ。擦れに弱いので、風でバタついても岩角で擦らないように調整しておく。

ガスの中に霞む大喰岳。

アルファベットAからのいくつかは槍ヶ岳側。うまい具合に個人のプライバシーも確保されている。

テント場のトイレは、小屋から少し離れた外トイレを使用する。立ち寄った登山者も使うので譲り合って使いたい。
キャンプ場の宿泊料金にトイレ使用料が含まれているので、トイレの度にお金を払わなくてもよい。

男性用の個室内。ドアを開けて入ると中央に便器あり。角に大きめのゴミ箱(使用済みの紙入れ)があり、小柄な私でも身動きがとれない。もう少しだけ便器が奥にあったら使い勝手が良いのにと思う。トイレ個室内での着替えは難しい。

トイレには紙が完備されている。便意を催したとき、手ぶらでトイレに駆け込んでも大丈夫だ。ただし、これは2020年夏のこと。

タープを張って食事と休憩を済ませたあとは、槍の穂先に登ることにした。
普段だったら満席の展望席も人が疎ら。

自作の軽量ナップサックにウインドブレーカーとおやつ、自転車用水ボトル、貴重品の入った自作のサコッシュを入れて、自転車用ヘルメットを被って出かける。

自転車用と登山用のヘルメットの大きな違いは、大きな通気口があるかないか。たぶん登山用のよりも涼しい。同程度の防御性能があるだろう。

 

下から上がってくる登山者たち。赤い屋根が殺生ヒュッテ。蟻の行列のようにゾロゾロとやって来るではないか。

槍の穂先往復のルートは部分的に一方通行の区間あり
いきなり間違えて下り側から登ってしまう。

槍ヶ岳山荘の全景

テント場は左の画面外にある。

小槍と呼ばれる大岩。一般登山者用のルートはなし。

穂先だけは結構混雑していた。
混雑ピークのお盆時期は肩の小屋から山頂まで長い長い行列ができるのだとか。必ず小屋でトイレを済ませておく。

人とすれ違う時は落石に注意して安全な場所で待機する。

山頂直下の長いハシゴはかなりの高度感あり。
高所恐怖症だと辛いかもしれない。

山頂は人でごった返していたので写真も撮らずにさっさと下山する。

穂先から下りてくると、テント場はかなりの賑わいをみせていた。
それでもポツポツと空きがある。結局この日は、1つか2つ空きがあった。

風でタープが飛ばされないように、重しの石を増量しておく。
シートのハトメにはロープを通さず、捻ってからロープで縛って固定する。

微風が吹いただけで破れないように傷んでいた箇所を補強しておく。
テントポールの緊急用スリーブにガムテやビニールテープを巻いて携帯している。

まだ早すぎる時間だが、夕飯を済ませることにした。
定番の袋ラーメンだ!

レギュレーターストーブST-330で調理したラーメン。

カセットボンベ仕様のおっさん好みのガスストーブ。レギュレーター搭載で寒さに強く、ウインドマスター譲りのすり鉢状バーナーヘッドで風にも強い。さらに初代のST-310から100gも軽くなった。それがST-330フュージョンだ。標高3,000超の槍ヶ岳山荘でも、パワフルに燃焼する。

ただし点火しづらいという唯一とも言える欠点がある。ここだけの話にしておこう。

 

可憐に咲く高山植物

日没前の大喰岳

常念岳(じょうねんだけ)を背にして記念撮影。さあて寝るか。

こうして明るいうちから眠りに就くおっさんであった。

明るいうちに眠れば、ヘッドランプの電池を消耗することもない。